…全く、冗談にも程があるよ。
城はいきなり魔物の襲撃を受けた。
遠征に行っている兵士達は戻るよう命令を受けている筈なのにまだ戻ってこない。
恐らく、この襲撃事件の犯人による妨害を受けているんだろう。
今城にいるのは僕とミルハウストとリグレットの部隊だけ。
それ程強い魔物ではないけれど数だけは多くて、皆疲労が隠せない。
陛下の所にまでは必ず行かせやしない。
彼女はこの国に無くてはならない存在だからね。
まあ彼女の傍にはあの熱血ミルハウストがいるからそれは心配ないだろうけど。
どちらかと言うと僕達の方がそろそろ押され始めたって感じかな。
「サレ、何体だ?」
「48…あ、これで49」
「そうか。しかし一体何処からこれだけの数の魔物が…」
「さぁね。解ってるのはこれは誰かが仕組んだことってくらいかな」
基本的に互いの領分を侵しさえしなければ魔物が人間の住んでいる場所へ襲撃してくる事は無い。
今回の騒動は誰かが魔物を操っている、もしくは引き寄せているとしか思えない。
そんなことが出来るのか、と言われれば「Yes」だ。
ガジュマの多くは“フォルス”と言う特別な力を持つ。
そのフォルスの中には魔物を操る事の出来る、“牙のフォルス”と言うモノもあると聞く。
一般的にフォルスを持つのにガジュマやヒューマは関係無いと言うが、割合的にはガジュマの方が圧倒的に多い。
ヒューマでフォルスを持ってるのはこの街では僕だけだしね。
「新手だ」
「労災おりるかな、これ」
「なんなら陛下に直接掛け合え」
「全て終わったら考えとくよ」
ずん、と重い音がする。
先程の雑魚とは比べ物にならない大物が混じっちゃったかな?
ストーンゴレムにラーヴァゴレム、それからウドゴレム。
ここらじゃ見かけない系統ばかりだ。
大柄の奴等はその強大な腕力が武器だ。
けれど一度懐に飛び込んでしまえば隙が生まれる……っ!??!
「ば、馬鹿な…」
「……有り得ない」
近づいて来た奴等は、恐ろしく異常発達しているとしか思えないデカさだった。
普段ならこいつ等の大きさは精々2〜3m。
だが僕らの前にいるものは5mはあるんじゃないかってくらい。
大きな腕が振り下ろされる。
その一撃は思っていたものよりも大きく、疲れた体ではかわすのがやっとだ。
そうか、それで最初に雑魚を大量に…。
敵ながらよく考えるね。
ああ、腹が立つ。
「…っち」
「どうした、弱気になっているのか?」
「まさか」
背中を合わせた僕らを中心にゴレム達が円を作る。
これが四面楚歌ってやつなのかな。
「一か八か、賭けでもしてみる?」
「…賭けだと?貴様と心中なんて御免だ。するなら成功させてもらう」
「僕も自信無いんだよ。だって、本当に賭けだからねえ。………此処に、増援が来るかどうか」
「本当に賭けだな。城の入り口は魔物で塞がれているし、兵達はこれ以上人員をさける余裕が無い」
それでも、心の何処かで期待している自分がいる。
絶望的な状況を打ち砕いてくれる誰かが、此処へ来るんじゃないかって。
僕らしくないけどね。
「まあ賭けは僕らが死ぬまで有効だから。今は足掻いてみようじゃないか」
「お前は……。まあいい。私もこんな所で死ぬわけにはいかないからな」
残された魔力を最大限まで高め始める。
嵐のフォルスと言えど、少ないマナでは精々カマイタチぐらいしか起こせない。
此処にいる奴等を一掃しようと思えば、搾り出す勢いで魔力を練りこまないとね。
目の前のゴレム達が一斉に僕達に向かってくる。
刹那、一陣の風が吹いた。
「行くぜ、ジェイ!!!」
「解りました」
「「瞬迅雷電!!!」」
僕達を取り囲んでいたゴレム達の一角が一瞬で崩された。
飛び込んできたのは、街で会ったあの子。
「上手くいったな」
「結構賭けでしたけどね。勝算はありましたし」
「…君達、なんで此処に?」
僕が声をかけると、さも今気付きましたと言わんばかりの表情を向けてきた。
「あ、いたんだ。気付かなかった」
「当たらなくて良かったですね。合体奥義と言う行動自体初めてだったんですよ、僕達」
してやったりとニヤリと笑みを浮かべる二人。
…中々言うね。
その物言いは…初対面の時のこと根に持ってるってことかな。
「サレ、お前の賭けとやらはこういうことか?」
「まあ…ちょっと違ったけど結果オーライかな…?」
「貴方達何をしているの?まだ終わってなくてよ」
女の声がしたかと思うと、僕やリグレットの傷が治った。
どうやら治癒術をかけてくれたらしい。
「黒幕は一番奥にいるものだよね」
「そうですね、奥と言えば一番権力のある人物が居る所です」
「つまり狙いは女王陛下ってということになるわね。行きましょう、・ジェイ」
三人はあっさりとゴレム達を倒し、奥に進んでいく。
僕は汚れた服を軽く払うと彼等が進んでいった方向へ歩き出した。
「サレ?」
「何してるんだい、リグレット?あんな子供達だけには陛下はお任せ出来ないよ?」
「…ああ、そうだな」
借りを受けるのは好きじゃないんだよね。
倍にして返してあげる。
「、何か大きなマナの気配を感じるわ」
「…ああ…この先に…」
の鼓動がこの先にいるであろう存在に気付かせる。
血流が急ぎ足で全身を駆け巡っていく感覚、もう何度も味わったもの。
「お待ちを!」
テネブラエの声に走らせていた足を止める。
達が進もうとした方向からバタバタと足音が複数聞こえてきた。
「た、助けてくれぇぇぇ!!」
「殺されるぅぅぅ!!」
足をもつれさせながら走ってきたのは中年男性二人組。
その二人には見覚えがあった。
―――あの日、路地裏で怪しい密談をしていた二人。
「貴方達、城の兵じゃありませんね。何故此処に?」
「ひぃっ!!頼む殺さないでくれ!!」
ジェイの鋭い眼光に男達は床にへたり込む。
「落ち着きなさい、何があったと言うの?」
リフィルが冷静に問いただせば、声を震わせながら男達は呟き始めた。
「あの…あの男が俺達を騙しやがったんだ」
「ガジュマの王を失脚させる方法があるって…。だから俺達従ったのに…」
その聞き捨てなら無い言葉に、は男の胸元を掴み上げた。
「アンタら…もしかして街にモンスターを…!!」
「ぐっ…ああそうだ…。街に魔物が出ればこの街を治める王の信用は落ちる…。ケッ…大体ガジュマがヒューマの上に立つのがおかしいってんだ…」
「けど、その貴方方の行動のお陰でそのヒューマまでもがこうやって危険に晒されているわけですがね」
「そ、それは!!アイツに騙されたんだ!!俺達はこんなことになるなんて聞いてない!!」
「……黙れ……黙れ!!!!」
の怒りは頂点を達し、右手を振り上げた。
「待ちなよ」
だがその右手が振り下ろされる事は無かった。
「……アンタ…」
「サレだよ、アンタじゃあない。君の手はそんなちっぽけな男を殴る為にあるのかい?」
「…っだけど…」
「ちゃんと然るべき処罰は与える。多分もう二度と日の目を拝むことは無いだろうね」
サレの言葉に男達の顔色が青くなる。
は振り上げていた拳を力なく降ろし、そのままゆっくりとサレの方にもたれかかった。
「……なんなんだよ…。なんでなんだよ…」
「様…」
テネブラエが心配そうに覗き込む。
悲しみと怒りの入り交ざったはとても不安定で、見ていて心苦しくなる。
「お前達、コイツ等は私が預かろう。陛下の許へ行け」
「そうだね。話からすれば真の黒幕がこの先にいるようだし」
サレはの肩を支え、しっかりと立たせてやる。
「さあ行こう」
「……ああ」
は剣を握り締め、俯いていた顔を上げた。
そこには先程のように落ち込んでいた表情ではなく、しっかりと前を見る瞳があった。
「この先に……」